「発売から1ヶ月未満で100万台」——この一行だけで、初代iPadがApple史においていかに異例の製品だったかがわかる。カメラすら搭載していないデバイスが、それほどの速度で売れた。2010年4月30日、AT&T専用のmicro-SIMを搭載したiPad Wi-Fi+3Gモデルが米国の顧客の手元に届いた日が、その記録の出発点だ。Wi-Fi専用モデルの先行発売から約1ヶ月後のことであり、その後の初年度累計は約2,500万台に達し、Appleにとって「史上最も成功した新製品カテゴリ立ち上げ」という称号を確定させた。Cult of Macが2026年4月30日付けの「Appleの歴史」シリーズとして当時を振り返っている。

AT&T独占のmicro-SIM——「セルラーiPad」の最初の姿

Wi-Fi+3Gモデルの外箱は、Wi-Fi専用モデルとまったく同一だった。唯一の違いは、セルラー接続機能を示すシールが1枚追加されていたことだけ。しかし開封すれば、本体にはAT&Tブランドのmicro-SIMカードがあらかじめ搭載されていた。

発売当初、米国でiPadのセルラー通信をサポートするキャリアはAT&T1社のみだった。この独占体制が初代iPadのセルラーモデル展開を規定した。Wi-Fi専用モデルよりも高価なWi-Fi+3Gモデルを選ぶ消費者の選択肢は、最初からAT&T回線との組み合わせ一択に絞られていた。地味に見える外箱の「シール1枚の差」の裏には、こうした市場構造があった。

「石板の十戒以来の興奮」——業界がこれほど沸いた製品は異例だった

スティーブ・ジョブズがiPadを公開したのは2010年1月27日のことだ。Wi-Fi+3Gモデルが顧客に届くまでの約3ヶ月間に、iPadはすでに大きな商業的・批評的な成功を収めていた。

その熱狂を端的に示すのが、The Wall Street Journalの評だ。「タブレットにこれほど興奮したのは、それが石板に十戒が刻まれていた時代以来だ」——21世紀のガジェットに対してこれほど大仰な賛辞が向けられたこと自体、当時のiPadに対する期待水準の異常さを物語っている。Wi-Fi+3Gモデルの到着は、その熱狂の延長線上にあった。Cult of Macによれば、この時点でiPadはすでに「Apple史上最速の新製品になる軌道に乗っていた」とされる。

カメラなしで100万台——スペックではなく「体験のカテゴリ」が売れた

初代iPadの主要スペックを改めて確認すると、今日の目線では制約が多いことがわかる。

  • 厚さ: 約0.5インチ(約12.7mm)
  • 重量: 約1.5ポンド(約680g)
  • ディスプレイ: 9.7インチ マルチタッチ
  • チップ: 1GHz Apple A4
  • ストレージ: 16GB〜64GB(フラッシュメモリ)
  • カメラ: 搭載なし

カメラを搭載せず、ストレージ最大64GBのこのデバイスが、発売から1ヶ月未満で100万台を売り切った。初年度の累計約2,500万台という数字は、この製品がスペックの優劣によって動いたのではないことを示している。Appleが売ったのはチップの性能でも画素数でもなく、「9.7インチの大画面タッチデバイスでコンテンツを消費する」という新しい体験の文法そのものだった。Cult of Macはこれをもって、初代iPadをApple史上最も成功した新製品カテゴリの立ち上げと位置づけている。

2026年のiPadを理解するために——タブレット市場の原点がここにある

初代iPadの記録を知ることが、現在のiPad理解に直結する理由がある。カメラなし・AT&T独占・micro-SIM搭載という制約だらけの初代モデルが1ヶ月未満で100万台を突破したという事実は、Appleがタブレットというカテゴリをいかに「スペック競争の外側」で定義したかを示している。

The Wall Street Journalが「石板の十戒以来の興奮」と評した製品が打ち立てた「28日未満で100万台・初年度2,500万台」という記録は、その後のタブレット市場全体の形成に影響を与えた出発点だ。2010年4月30日という日付を知ることは、現在のiPadがなぜこの形に落ち着いているのかを読み解くための文脈になる。

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