5月21日に予定されていた最終ヒアリングを目前に、Appleが求めたインドApp Store独禁調査の停止申し立てが却下されました。デリー高等裁判所はAppleにインド競争委員会(CCI)への「全面協力」を命じる一方、CCIには7月15日の次回審理まで最終決定を下さないよう制限を課しています。最大の焦点は、ローカル売上ではなくグローバル売上高を基準に制裁金を算定し得るというインドの新しいペナルティ枠組みです。

グローバル売上が制裁金算定の基準に——Appleが法廷で争う理由

今回の対立の核心は、Appleの財務情報をCCIにどこまで開示するかという点にあります。9to5Macによると、CCIは今月、Appleに対して財務情報の提出を求める最後通告を出し、5月21日に最終ヒアリングを予定していました。これに対しAppleは、CCIが司法権限を逸脱しているとして、デリー高裁に緊急の介入を求めた経緯があります。

背景には、インドが更新した競争法のもとで、制裁金がローカルの売上ではなく企業のグローバル売上高を基準に算定され得るという問題があります。Appleにとってインド市場の売上だけを基準にする場合と比べ、想定される制裁金の規模は桁違いに大きくなり得るため、Appleはペナルティの枠組み自体を法廷で争い、その一環としてCCIによるApp Store調査そのものの停止も求めていました。

CCI側は、Appleが調査の延長を繰り返し求めて手続きを引き延ばし、当局が必要とする財務情報の提出に抵抗してきたと批判しています。

7月15日まで凍結、その後どうなる

デリー高裁はAppleに対し、CCIが進めるApp Store独占禁止調査に「全面的に協力」するよう命じました。Appleが求めていた調査全体の停止は認められていません。ただし裁判所は、ケースが裁判所に戻る7月15日までは、CCIが最終決定を下さないよう制限を設けています。

裁判所はまた、Appleが特定の文書を記録として提出することを認めました。命令書では具体的な文書名は明示されていませんが、Appleが進めているインドの独禁ペナルティ枠組み自体への異議申し立ての一環とされています。

つまり次の節目は7月15日の再審理で、その日までは調査が動きつつもCCIは結論を出せない状態が続きます。Appleにとっては、グローバル売上を基準とする制裁金算定の前例が固まれば、インドにとどまらず他国の規制当局にも波及する可能性があります。

日本のユーザーに関係するのか

日本市場への直接的な影響は現時点では公表されていません。ただし、App Store手数料、ストア外決済、サイドローディングといった論点は世界各国の規制当局で議論が続いており、各当局がインドの判断を参考にする可能性は十分にあります。読者としては、7月15日の次回審理と、それまでに提出される文書の内容に注目しながら、続報を待つのが妥当な段階です。

調査の発端とインド市場でのAppleの位置づけ

今回の対立を理解するには、調査の出発点とインド市場におけるAppleの存在感を押さえておく必要があります。本件は2021年に非営利団体による申し立てから始まり、その後Tinder運営元のMatch Group、複数のインドのスタートアップが加わった経緯があります。2024年7月、CCI調査官はAppleが自社のアプリ内課金(IAP)の使用を開発者に強制し、最大30%の手数料を徴収することで支配的地位を濫用したと結論づけました。

シェアの伸びと想定される制裁金規模

  • インド市場シェア:2024年の7%から2025年に過去最高の9%へ上昇(Counterpoint Research)
  • 想定される制裁金は最大380億ドルに達し得るとされています
  • Appleは2025年11月、デリー高等裁判所でインドの独禁ペナルティ法そのものへの異議申し立てを別途進めています

これらの数値が示すのは、Appleにとってインド市場の存在感が拡大しつつあり、想定される制裁金の規模も巨額に達し得るという現実です。

2023年改正法とインド競争法の前例

グローバル売上を基準とする算定枠組みは、なぜここまで論争を呼ぶのでしょうか。鍵は、改正前後でCCIが用いる算定基盤が変わった点と、過去のインド国内における類似ケースにあります。

時期内容
2017年Excel Crop Care判決で、最高裁が「relevant turnover(関連売上)」原則を確立しています
2022年Google Playストア調査で、CCIがGoogleの支配的地位濫用と判断し、罰金と是正命令を出しています(Googleは一部控訴中)
2023年競争法改正でSection 27(b)の「turnover」定義が拡張され、グローバル売上ベースでの制裁金算定が可能となりました
2024年金銭的制裁ガイドラインが策定され、相対売上の特定が困難な場合にグローバル売上の利用が認められています

国際比較の観点では、EUと英国もグローバル売上を用いますが、それは算定基盤ではなく上限(cap)としての位置づけにとどまります。Appleにとっては、2017年判決で確立された関連売上原則が2023年改正で大きく書き換えられたこと、そしてCCIが2022年のGoogleケースで実際に制裁を科した実績の両方が、現在の法廷闘争の背景となっています。

Q&A

Q. なぜAppleはこれほど強くインドの調査に抵抗しているのですか? インドの更新後の競争法では、制裁金が企業のグローバル売上高を基準に算定され得るためです。インド市場の売上のみを基準にする場合と比べ、想定される制裁金の規模が大きく膨らみ得る点が、Appleがペナルティ枠組み自体の合法性を法廷で争っている直接的な動機とされています。

Q. グローバル売上基準だと制裁金はどれくらいの規模になり得るのですか? 具体的な金額や算定式の詳細は公表されていません。ただし、ローカル売上ではなく全世界の売上高が分母になり得るという点で、従来のローカル売上ベースの算定と比べて桁が大きく変わり得るというのが、Appleが法廷で枠組みそのものを争っている理由です。

Q. デリー高裁はAppleの主張を全面的に退けたのですか? 全面的な却下ではありません。Appleが求めた調査の停止は認められませんでしたが、裁判所はCCIに対し、7月15日までは最終決定を下さないよう制限を設けました。

出典