過去最大の赤字を出した企業が、未発表新作で生成AIを実験中——しかも社内評価は「ひどい出来」と伝えられています。未発表タイトル「Far Cry 7」の初期ビルドが、Ubisoft社内で生成AIツールの実験台として使われているとされるリーク情報が浮上しました。情報源はゲーム業界リークで知られるTom Henderson氏で、削除済みのX投稿が発端です。同社は同じ週に過去最大となる13億ユーロ(€1.3 billion、約2,300億円)の営業赤字を発表しており、AI投資の加速方針との対比が話題を呼んでいます。

削除されたX投稿——Henderson氏が見た「ひどい出来」

このリーク情報は、Insider GamingのTom Henderson氏が今週初めにX(旧Twitter)へ投稿し、その後削除した内容に基づくと報じられています。Tom's Hardwareによると、Henderson氏は未発表タイトル「Far Cry 7」の初期ビルドが生成AIツールのテストベッドとして利用されており、その出来栄えについて「looks like sh*t(ひどい出来だ)」と評したとされています。この発言はゲーム情報サイトTheGamerが最初に報じたと伝えられています。

Henderson氏はFar Cry 7の開発が難航している経緯を過去にも報じてきた人物で、フォローアップ投稿では「Far Cry 7における生成AI利用はあくまでR&D(研究開発)目的であり、Ubisoftの独立した生成AIプロジェクト『Teammates』とは別物である」と補足しているとされます。元の投稿は削除されましたが、このR&Dに関する補足は残されています。

なお、Far Cry 7自体はまだ正式発表されておらず、現時点で確認されているのは、決算報告書の中で「Far Cry、Assassin's Creed、Ghost Reconの新作を2029年3月までにリリースする」と明記されている点のみだとTom's Hardwareは伝えています。今回のAI実験が最終製品に搭載されるかは現時点では不明であり、実装されない可能性もあります。

Geminiベースの「Teammates」——Ubisoftが本命視するAIプロジェクト

Far Cry 7とは別に、Ubisoftが正式に進めている生成AIプロジェクトが「Teammates」です。決算報告書では「初の遊べる生成AI体験(first playable Generative AI experience)」として位置付けられており、投資加速の対象として明記されています。

Teammatesは、非公開でデモが披露されたR&D実験で、Google Geminiをベースに構築されているとされます(11月に非公開デモが行われたと報じられています)。プレイヤーの情報を記憶し、会話可能なコンパニオンとしてNPCを機能させる仕組みです。開発はUbisoft社内のLa Forge R&D部門が担当しています。

補足として、2024年のGDC(Game Developers Conference)では、NvidiaおよびInworld AIと提携した「Neo NPC」というデモも公開されています。決算報告ではTeammatesに加え、「AI駆動のQAボット」や「プレイヤー行動に適応しリアルタイムで動的に反応するNPC向けシステム」の構築にも触れられていますが、本命として投資加速の対象となっているのはTeammatesです。

ただし、これらAI実験のいずれも現時点で商業タイトルに搭載された実績はありません。

過去最大の赤字とAI投資の対比

Ubisoftの財務状況は厳しさを増しています。FY2025-26のIFRS基準営業損失は13億ユーロ(€1.3 billion、約2,300億円)に達し、過去最悪を記録しました。主な数字は以下の通りです。

項目FY2025-26実績
IFRS営業損失€1.3 billion(約2,300億円)
Net Bookings€1.53 billion(約2,700億円、前年比-17.4%)
プロジェクト中止7件
プロジェクト延期6件
人員削減過去1年間で約1,200人
Tencent取引による資金注入€1.16 billion(約2,050億円)

同社は、FY2026-27がフリーキャッシュフローの「低点(low point)」になり、その後反発する見通しだと警告しています。Tencent取引のクロージングによる現金注入が貸借対照表の安定化に寄与した一方で、本業の収益悪化は深刻です。

この苦境下にもかかわらず、決算報告書では「Teammatesへの投資を加速し、プレイヤー体験を豊かにする」と明言されています。

投資家の反応と過去の前例

UbisoftのAI投資加速方針は、投資家から必ずしも歓迎されていません。今年1月のリストラ発表時、同社は「プレイヤー向け生成AIへの投資加速」を新たな運営モデルの柱として打ち出しましたが、これを受けて株価は単日で34%下落し、時価総額は€1 billion(約1,770億円)を下回ったと報じられています。

過去にも、Ubisoftは新興テクノロジーへの参入で失敗を経験しています。2021年12月にローンチされたNFTプラットフォーム「Quartz」は、Ghost Recon Breakpointに統合されたものの、プレイヤーからの強い反発を受けて放棄されました。

現時点で読者が判断すべきこと

今回のリーク情報を整理すると、確定情報とリーク情報は以下のように区別できます。

  • 確定: Ubisoftが決算報告で生成AI投資の加速を明言/FY2025-26で13億ユーロ(€1.3 billion、約2,300億円)の営業赤字/Far Cry・Assassin's Creed・Ghost Recon新作を2029年3月までにリリース予定
  • リーク(削除済み投稿): Far Cry 7の初期ビルドが生成AIテストに使われている/その出来は「ひどい」とHenderson氏が評価したと報じられている
  • 不明: Far Cry 7が正式発表される時期/最終製品にAIが搭載されるかどうか/Teammatesの商用タイトルへの実装時期

Far Cry 7を待つファンへの実利的な含意としては、①Henderson氏自身が「R&D目的で本編搭載とは別物」と補足している点から、リーク内容が即「製品仕様」に直結するわけではないこと、②過去最大級の赤字下で7件のプロジェクト中止・6件の延期が行われている以上、新作の発売時期が後ろ倒しになるリスクは引き続き意識しておくべきこと、の2点が挙げられます。R&D段階の実験は最終製品の仕様に反映されないことが多く、過剰反応は避けるべきです。現時点では「Far Cry 7のAI活用は決定事項ではなく、テスト段階にとどまる可能性が高い」と判断するのが妥当です。続報を待ちましょう。

Teammatesの技術構成——Jaspar・Sofia・Pabloと社内ガードレールAPI

Yves Guillemot CEOはVariety誌で「Teammatesは現時点ではR&Dだが、すでに社内チームに提供している」と説明しています。プロジェクトの全体像が公式チャンネルからも明らかになりつつあります。

登場キャラクターと安全装置

TeammatesはFPS形式で構成されており、AIアシスタントの「Jaspar」と2人のNPC仲間「Sofia」「Pablo」が登場し、音声コマンドでの操作に対応しています。プレイヤーはキャラクターたちとの自然なやり取りを通じて体験を進められる設計になっています。

技術基盤としては、Ubisoftが内部APIを独自に構築し、ハルシネーション、トキシックな発言、世界観を破壊するような応答をフィルタするガードレールが実装されています。生成AIが本来抱える品質面のリスクを、システム側で抑え込む方針が採られています。

クローズドプレイテストにはすでに数百人規模のプレイヤーが参加しており、社内チームと外部テスターからのフィードバックがR&Dの方向性を継続的に形作っています。

業界全体の温度差——EA・Kraftonの参入と開発者意識の変化

企業・組織2025-2026年の動き
EA × Stability AIPBRテクスチャ生成・3D環境のプロンプト生成を共同開発
Krafton「AI First」転換、GPUクラスタに約1,000億ウォン投資
GDC 2026調査開発者の52%が生成AIに否定的(2025年30%、2024年18%)

EAはStability AIとの提携を発表し、PBR(Physically Based Rendering)テクスチャ生成や3D環境のプロンプト生成ツールを共同開発しています。PUBGなどで知られるKraftonは2026年下半期までにAI基盤を整備し、約1,000億ウォンをGPUクラスタへ投じる「AI First」企業への転換を打ち出しています。

一方で開発者の受け止めは厳しく、GDC 2026の調査では業界専門家の52%が生成AIはゲーム業界に悪影響を与えていると回答し、前年の30%、その前の18%から急上昇しています。投資家サイドの見方は対照的で、Morgan Stanleyは生成AIがゲーム業界に追加で220億ドル規模の利益をもたらす可能性があると試算しています。

Q&A

Q. Far Cry 7に生成AIが搭載されることは確定したのですか? 確定していません。Insider GamingのTom Henderson氏が削除済みX投稿でリークしたとされる情報であり、本人もR&D目的であって最終製品への搭載とは別だと補足しています。Far Cry 7自体もまだ正式発表されていません。

Q. UbisoftのAI投資加速は財務的に妥当なのですか? 財務指標とのギャップは大きいと言えます。同社はFY2025-26に過去最大の13億ユーロ(€1.3 billion、約2,300億円)の営業赤字を計上しており、今年1月のAI投資加速発表時には株価が単日34%下落し時価総額が€1 billion(約1,770億円)を下回ったと報じられました。市場の評価は厳しい一方で、経営陣は決算報告書でTeammatesへの投資加速を改めて明言しており、短期的な市場の反応よりも中長期の戦略転換を優先する姿勢を取っていると読み取れます。

Q. 「Teammates」と今回のFar Cry 7のAIテストは同じものですか? 別物だとされています。Henderson氏のフォローアップ投稿によれば、Far Cry 7で行われているのは独立した研究開発であり、Google Geminiベースで開発されているTeammatesプロジェクトとは切り離されているとのことです。

出典