最大43dB——火山岩を主成分とするスプレー式レーダー吸収材「Kürşat 3.0」が打ち出した、電波減衰の公表値です。学術研究で標準条件下の広帯域コーティングが示してきた20〜30dB程度を、10dB以上上回る数字。事実ならば、安価で量が物を言うドローン戦の攻防バランスに揺さぶりをかけ得る話です。

公表したのは、トルコの研究者Yunus İnce氏と同氏が率いる小規模な防衛研究企業。Defense Blogが伝え、Tom's Hardwareが引用するかたちで紹介しました。ただし、この数値はあくまで開発側の公表値であり、第三者の独立検証はまだ行われていません。読者にとっての含意はシンプルです——「もし本当なら、もともと小さくて掴みにくい標的が、さらに見つけにくくなる」。

43dB減衰の公表値——火山岩が電波を熱に変える

İnce氏と所属企業は、Kürşat 3.0を7年以上にわたって開発してきたといいます。同氏がDefense Blogに共有したテスト映像では、最大43dBの信号減衰を示す結果が映されたと伝えられています。

素材についてİnce氏は、火山質玄武岩(basalt)と軽石(pumice)の構造を活用していると説明しました。これらの素材は微細な多孔質構造を持ち、その孔を電磁波を捕えるよう設計できる可能性があると報じられています。多孔体が電波を熱へ変換する考え方自体は、従来のRAMにも通じる原理です。

ここで一度、はっきりさせておきます。同社の公表値は、第三者の専門家による検証を経て初めて、本当にUAVを検出しにくくする効果があるかどうかが裏付けられる段階です。現時点ではテスト映像と数値が先行している状態と理解しておくのが妥当でしょう。

なぜ大半は形状で稼ぐのか——F-117からB-21までの位置づけ

伝統的な低被発見性(ロー・オブザーバビリティ)技術は、レーダー波の「偏向(deflection)」と「吸収(absorption)」を組み合わせて機体のレーダー断面積を抑えます。実用化された初の本格的ステルス機F-117 Nighthawkが、戦闘機らしい滑らかなスキンではなく多面体的な角張った形状を採用していたのは、この偏向のためでした。

その後、計算機性能の向上で空力とレーダー偏向の両立が可能になり、B-21 RaiderやF-35 Joint Strike Fighterといった近代ステルス機は、F-117よりはるかに滑らかなフォルムへ進化しました。Tom's Hardwareによれば、機体のステルス性能の大半は信号の偏向によって生まれ、それでも逸らしきれずに残るレーダー波を熱に変える役割を担うのがRAMだと整理されています。

Kürşat 3.0のような塗布型RAMは、形状で電波を逸らせない小型UAVに対し、ステルス性を「後付け」する位置づけになります。

安価で量が物を言うドローン戦に何をもたらすか

ドローン戦は近年急速に拡大しています。2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻では、安価で小型な機体が高価な戦車部隊の進撃を実質的に押し戻し得ることを示しました。両陣営はUAVを軍事戦術の柱として全面的に採用しており、各国軍はレーザー、マイクロ波、運動エネルギー兵器など、コスト効率の高い対UAV手段を模索しています。

UAVの強みは小型・安価ゆえに、専用のレーダー偏向設計を取り入れるコスト効率が悪いという点にあります。だからこそ、Kürşat 3.0が独立した試験でも性能を裏付けられれば、防御側にとっては「もともと小さくて掴みにくい標的が、さらに見つけにくくなる」変化となり、ゲームチェンジャーになり得るとの見方が示されています。

比較項目Kürşat 3.0(公表値)学術研究の広帯域RAM
レーダー反射減衰最大43dB20〜30dB程度
形態スプレー塗布型コーティング
第三者検証未実施実施済み(標準条件下)

一方で限界もあります。多くのドローンは効率と速度を優先して設計されており、レーダー波を逸らすのに必要な形状を持ちません。特にクアッドコプターは4基の露出したブレードがそのまま反射源になりやすく、塗料を施しただけでは完全に検出を逃れられるわけではありません。Tom's Hardwareも、Kürşat 3.0がドローン・ステルスの「決定版」ではないと釘を刺しています。

43dB・火山岩・検証待ち——独立試験が次の焦点

Kürşat 3.0は、塗布するだけで小型UAVの被発見性を下げられるという公表値が事実ならば、価格と量で勝負するドローン側の生存性を底上げし得る塗料です。一方で現時点では、テスト映像と企業側の数値が先行している段階であり、43dBという数値が実戦に近い条件で再現されるかは独立検証次第といえます。

要点を凝縮すれば——「火山岩ベースの新型RAMが最大43dB減衰という従来比10dB超の数値を打ち出し、ドローン戦の攻防バランスを揺らし得る一方、その鍵を握るのは第三者試験の結果である」。続報の焦点は、この一点に集約されます。

スプレー塗布の実装メリット——既存機体への「後付け」を可能にする3条件

塗布型RAMが小型UAVに刺さる理由は、性能数値だけでなく実装面の制約をどれだけ外せるかにあります。Kürşat 3.0について報じられている特徴は、量産ドローンへの後付け適用を現実的にする3点に整理できます。

  • 接着複合パネルが不要で、曲面や不規則な機体形状にも継ぎ目や被覆ギャップなしで塗布可能
  • 重量増加は無視できるレベルで、機体の構造改修も不要
  • 振動や温度サイクルで劣化する接着剤を使った複合パネルの貼り合わせ工程が省ける

この含意は明確です。クアッドコプターのように4基のブレードが露出する機体でも、機体外皮や胴体側だけは塗布で被覆できます。レーダー吸収塗料だけでは完全なステルスにはならないものの、レーダー反射を減らせば探知距離が短くなり、追跡が複雑化して、競合環境下での生存性が改善する可能性があります。「ゼロ→1」の完全ステルス化ではなく、既存の量産ドローンに少しずつ生存性を上積みする方向性として、塗布型は実装ハードルが低い選択肢となります。

玄武岩繊維を使う別系統RAM——FibreCoatが示すもう一つの実装フォーマット

スプレー塗布以外にも、玄武岩を素材選択の起点とするレーダー吸収材の系譜が並行して動いています。素材メーカーFibreCoatは、金属コートガラス繊維と玄武岩繊維をポリマーで積層したRAMを開発し、TIME誌の2025年Best Inventionsに選ばれました。

従来のステルス塗料は定期的な再塗布が必要——繊維積層という耐久性側のフォーマットが、再塗布前提のRAMに対する別解として立ち上がっています。

供給先はすでに政府機関やSaint-Gobainに広がり、軍事用途に限らずEV車両や建物のEMI(電磁干渉)対策にも応用が見込まれています。Kürşat 3.0が液体スプレーで既存機体に後付けする方向であるのに対し、FibreCoatは積層構造で耐久性を確保する方向に踏み込んでいます。同じ玄武岩を素材選択の起点としつつ、塗布型と積層型という異なる実装フォーマットが並走している構図は、レーダー吸収材の需要がドローン用途を超え、車両や建築インフラの電磁波制御市場にも広がりつつあることを示しています。

Q&A

Q. 43dBという数値は実戦に近い条件でも再現できるのですか? 公表されているのはİnce氏側が共有したテスト映像と数値であり、実戦条件下での再現性は独立した第三者検証を経なければ判断できません。学術研究での20〜30dB程度という比較値も標準条件下の数字であり、現場での性能保証には別途試験が必要です。

Q. なぜ火山岩を素材に使うのですか? İnce氏によると、火山質玄武岩や軽石は微細な多孔質構造を持ち、その孔を設計することで電磁波を捕え、検出を回避できる可能性があるとされています。多孔体が電波を熱に変換する考え方自体は、従来のRAMにも共通する原理です。

Q. これでドローンは完全にレーダーから消えるのですか? いいえ。多くのドローンは効率と速度を優先した設計で、レーダー波を逸らすのに必要な形状を備えていません。特にクアッドコプターは露出したブレードが反射源になりやすく、この塗料はドローン・ステルスの決定版ではないと整理されています。

出典