元世界記録保持者のドローンビルダー2人組、AidanとBenが、自作機「Blackbird」で最高速453 mph(730 kph・394 kts)を記録し、非公式ながらドローンの世界最速記録を更新したと報じられています。これはジェット旅客機の巡航速度約550 mphの8割を超える数字で、決め手はカーボンファイバー製の特注プロペラと、高ピッチかつノコ刃形状の前縁設計です。
453 mphに至るまでの記録合戦
2人は2025年12月に388 mph(626 kph)を出してトップに立ったものの、その後Bellの父子チームが「Peregreen V4」で408 mphをマークし、王座を奪われていました。今回はその奪還を狙い、新しい特注プロペラを用意してテストランに挑んだ流れです。
テストランの内訳は次の通りです。
| 試行 | 速度 | 備考 |
|---|---|---|
| 初回(前日) | 393 mph(633 kph) | 通信ロストで機体喪失 |
| 追い風 | 453 mph(730 kph) | 非公式世界記録(単発最高) |
| 向かい風 | 397 mph(640 kph) | 同日2本目 |
| 平均 | 425 mph(685 kph) | 事前に掲げた到達ライン434 mph超には僅かに届かず |
| 実対気速度 | 419 mph(674 kph) | 34 mphの追い風を差し引いた値 |
事前に掲げていた数字は2つあり、当初の挑戦目標は441 mph(単発最高として狙っていたライン)、平均値での到達ラインとして示されていたのが434 mph超でした。結果は単発最高が目標441 mphを上回る一方、平均値425 mphは「434 mph超」にはわずかに届かなかった、と整理されています。それでも現状の世界記録は更新したと見られています。
カーボン製プロペラに仕込まれた2つの工夫
Blackbirdの「秘伝のタレ」とされているのが、職人がハンドメイドしたカーボンファイバー製のカスタムブレードです。具体的なピッチ角は非公開とされていますが、設計上の特徴は2点が挙げられています。
- 高ピッチ角: 進行方向寄りに角度を寝かせることで、高速域では翼面が気流とより平行に近くなり、効率が大きく改善されます。一方、離陸やホバリングなどの低速域ではパワーが出にくく、その短い区間では消費電力が増えるトレードオフがあります。
- ノコ刃状の前縁: 翼面に小さな渦(ボルテックス)を発生させることで、気流がブレードを横方向に逃げず、後縁から真っすぐ抜けて推力に変わるようにします。同時に「潤滑剤」のように働く境界層を安定化させ、抗力を抑えます。これにより、通常なら失速してしまうほど立てたピッチ角でも、ブレードが「ミキサー」ではなく「プロペラ」として機能できるとされています。
「角度が立ちすぎると、プロペラというよりミキサーになってしまう」——ノコ刃前縁はこの限界をずらすための工夫が肝です。
つまりピッチ角を立てて高速域に振った設計でも、ノコ刃前縁で失速を遅らせて成立させている、というのが今回のキモです。
時速453マイルの代償——1機は粉砕、もう1機もハードランディング
成功までの道のりは平坦ではなく、初回のテストでは393 mph到達後にアンテナ形状・ドップラー効果・信号過負荷が重なって機体が操縦不能になり、回収は断念されました。仮にコントローラーの目の前で通信が切れたとしても、その速度では落下するまでに何マイルも飛んでしまうため、地主が後日「完全に粉砕された」状態で発見したと伝えられています。
幸い、もう1機と予備のプロペラ一式が残っていたため、翌日に再挑戦。バッテリーは2本分しかなく、悪天候も迫る中、風の影響を相殺するため追い風と向かい風で1本ずつ走らせて平均を取る形にした、というのが今回のテスト設計の要です。最後のラン後、機体は地表数フィートでバッテリーが完全に空になりハードランディングしたものの、こちらは修理可能とされ、今後の公式記録挑戦に望みをつないでいます。
公式認定への壁——往復平均425 mphは認められるか
今回はあくまで「非公式」の世界記録です。本人たちは公式記録挑戦に進みたい意向と伝えられており、機体の修理が整えば、Bell父子チームの408 mph(Peregreen V4)を含む既存の数字と正面から比較できる場が用意されることになります。リーク的・噂レベルではなく実機テスト動画が公開されている点、そして単発の追い風数値ではなく往復平均425 mph、追い風補正後でも実対気速度419 mphが残っている点が、今後の認定議論で効いてくるはずです。
続報を追うなら、Drone Pro HubのYouTubeチャンネルが一次的なソースになります。現時点では「非公式ながら世界記録更新」と捉え、公式記録の挑戦結果を待つのが妥当です。
公式ギネス認定までに残された「立会人」と「着陸」の壁
非公式に留まる最大の要因は、技術ではなく手続き面にあります。認定された観察者を現地に確保できなかったことが、今回のテストが公式記録として扱われない主因とされています。さらに着陸の質も論点として浮上しており、認定の可否を左右する要素として議論されています。
認定が困難視される2つの理由
- 立会人不在: 認定オブザーバーの不在は変わっておらず、2026年6月までに認定要員付きの公式挑戦が行われる見立てが示されています。
- 着陸の状態: 残存機体はバッテリーがほぼ枯渇した状態で着地しており、この点も認定却下の要因として議論の対象になっています。
現行の公式記録は、Peregreen V4が2025年12月11日に南アフリカ・ケープタウンで認定したものです。Blackbirdが追い風単発で730 km/hに到達した事実は揺るがないものの、認定の鍵はあくまでも認定要員の手配と着陸状態という運用面に絞られつつあります。
ハードウェアの中身——APC 7×15からカーボン特注へ、ピーク19.1 kWの世界
Blackbirdは派手な数字の裏に、極限まで攻めた電動パワートレインを抱えています。今回の核心となるハードウェア変更は、以前の記録時に使っていた既製品のAPC 7×15ブレードを、ノコ刃前縁を持つハンドメイドのカーボンファイバー製プロペラへ置き換えた点にあります。機体の構成部品の総額は約3,000ドルとされており、自作機ながら抑えた価格帯で組み上げられています。
記録走時の主要スペック
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 機体重量 | 約2 kg |
| ピーク電力 | 19.1 kW |
| ピーク電流/電圧 | 449 A/42.5 V |
| バッテリー温度 | 約80℃(ヒートシュリンクが溶ける水準) |
新ブレード導入初期は順調ではなく、新プロペラを装着した初日のテストは630 km/h付近で頭打ちとなりました。セットアップを煮詰めた末に730 km/hへ跳ねた経緯は、特注ブレードのポテンシャルが現実だった一方で、運用には繊細さが伴うことも示しています。
Q&A
Q. 結局、Blackbirdの「世界記録」とは何の数字ですか? 追い風込みの単発最高速が453 mph(730 kph)で、これが非公式ながら世界記録とされている数字です。34 mphの追い風を差し引いた実対気速度は419 mph、向かい風397 mphとの平均は425 mphとなります。
Q. なぜカスタムプロペラがそれほど重要なのですか? 高速域では、ブレードを進行方向寄りに寝かせた高ピッチ設計のほうが気流と平行になり効率が上がる一方、立てすぎると失速します。Blackbirdはノコ刃状の前縁で小さな渦と境界層の安定化を作り、より立てたピッチでも失速させない設計にしているのが要点です。
Q. これは正式な世界記録になるのですか? 現時点では公式認定された記録ではありません。テストで使った機体のうち1機は喪失、もう1機もハードランディングでダメージを負ったものの修理可能とされており、修復後に公式記録挑戦に進む意向だと伝えられています。
出典
- Tom's Hardware — Drone breaks world speed record with 453 mph in test run — exotic sawtooth carbon fiber propeller blades one of the key advances in the Blackbird design
- DroneXL — Benjamin Biggs' Blackbird Drone Tops 730 Km/h, But The 685 Km/h Average Won't Count
- DroneXL — Luke Maximo Bell's Peregreen V4 Goes 408 Mph, New Guinness "Fastest Drone" Record Holder
