「AIエージェントを賢く組めば、10〜15人分の仕事ができる」——そう語るのは、Unreal Engineのプロダクトマネジメント グローバルディレクターを務めたArjan Brussee氏。米国・中国製ゲームエンジンに対抗する完全欧州産の代替エンジン「The Immense Engine」を開発中であると、オランダのポッドキャスト番組De Technoloogでのインタビューで明かしました。同内容をVideo Games Chronicleが取り上げ、Tom's Hardwareがその狙いと背景を解説しています。

「The Immense Engine」——欧州ホスト・欧州ルール準拠を掲げる新エンジン

UnrealはEpic Games(米国)、Unityはデンマーク発ながら2009年にサンフランシスコへ本社を移しており、現在主流のゲームエンジンは米国系・中国系が中心です。Brussee氏はこうした状況に対し、欧州製エンジンが十分対抗できると見ています。

The Immense Engineは以下の特徴を掲げます。

  • 完全に欧州でホストされる
  • 欧州人によって開発される
  • 欧州の規則・ガイドラインに準拠する

ゲーム用途だけでなく、3Dワールドの実用的な表現を視野に入れて開発が進められている点も特筆すべきポイントです。すでに開発作業は着手されていると報じられています。

開発者Arjan Brussee氏の経歴——Epic・Guerrilla Gamesを渡り歩いた重鎮

Brussee氏の経歴はゲーム業界において厚みのあるものです。

時期役職・所属
1990年代Epic Gamesで『Jazz Jackrabbit』シリーズをプログラミング
2003年〜Guerrilla Games(『Killzone』シリーズ)共同創業
2012年〜Boss Key Productions共同創業
2018年〜2023年Epic Gamesに復帰し、Unreal Engineのプロダクトマネジメント グローバルディレクターを務める

Unreal Engineの中枢で5年にわたりプロダクト戦略を見てきた人物が、今度はその対抗となる欧州製エンジンを立ち上げようとしている構図です。

AIエージェント活用で「10〜15人分の仕事」を狙う

ソフトウェア開発とAIの関係について、Brussee氏は積極的な姿勢を示しています。ポッドキャスト内では、限られた人的リソースを最大限活かす点にAIの機会を見出していると語りました。

「AIエージェントの優れたフレームワークを賢く組めば、10〜15人分の仕事をこなせる」(Brussee氏)

この発言は、AIエージェントをエンジン開発プロセスそのものに組み込む方針を強く示唆しています。少人数のチームでもUnreal・Unityといった巨大エンジンに伍する開発スピードを確保しようという発想で、ゲームエンジンという複雑かつ大規模なソフトウェアを欧州独自で立ち上げるうえでの現実解と言えるでしょう。一方、The Immense Engine自体にAIツールが組み込まれるかどうかは現時点で明らかになっていないと、Tom's Hardwareは伝えています。

ゲーム以外の用途——防衛・物流・行政の3Dシミュレーション

The Immense Engineの想定用途は、ゲームだけにとどまりません。欧州製で欧州ルールに準拠するという特徴は、欧州大陸内における以下のような領域での採用拡大に寄与する可能性があります。

  • 防衛分野の3Dシミュレーション
  • 物流分野の3Dシミュレーション
  • 中央・地方行政プロジェクト

Tom's Hardwareは、日本の地方自治体が大規模土木プロジェクトで米国製ゲームエンジンを活用している事例にも触れており、Brussee氏が同様の発想で欧州市場を狙っていると見ています。

Unreal/Unityに勝てるのか

The Immense Engineはまだ開発初期段階で、リリース時期・対応プラットフォーム・ビジネスモデルなどの具体的な情報は公表されていません。AIツールがエンジンに統合されるかどうかも未確定です。Brussee氏の構想で前面に出ているのは、技術スペックでの優位性よりも「欧州ホスト・欧州ルール準拠」という設計思想であり、Tom's Hardwareは、こうした特徴が欧州域内の行政・公共セクターでの採用拡大に寄与し得ると指摘しています。詳細は出典元を参照してください。

AIエージェント基盤の中身——Claude・ChatGPTをモジュール化、欧州LLM「Mistral」は候補どまり

The Immense Engineの「AIネイティブ」な内部構造についても、複数メディアが追加情報を伝えています。ClaudeやChatGPTといったAIエージェントがモジュールとしてこの新ソフトウェアに組み込まれ、任意のLLM向けの新機能も容易に統合できる設計とされています。一方で「欧州主権」という看板には注釈がつきます。

米国LLM依存という矛盾

  • AIエージェントスタックは現状OpenAIやAnthropicなど米国プロバイダに依存しており、独立性の主張を複雑にしているとの指摘があります
  • Brussee氏は欧州LLMの候補としてMistralに言及していますが、統合は確定していません
  • エンジン自体は多くの現代的AIツールと同様にクラウドリソースに依存し、ホスティングは完全に欧州内で行われる方針です

プロジェクトの資金規模、チーム規模、スタジオ提携は未公表で、公開デモやロードマップ、確定したベータアクセスも存在しません。掲げる思想と実装の現実とのギャップは、今後の透明性ある情報開示で埋めていく必要がありそうです。

周辺文脈——Decimaのライセンス計画、Unity移転史、EGDFの「人間主導AI」方針

The Immense Engineの行方は、欧州ゲーム産業を取り巻く広い文脈とあわせて読む必要があります。参考までに、SonyはGuerrillaのDecimaエンジンをサードパーティ開発者にライセンス供与する計画を別途進めており、欧州産エンジンが普及の足がかりを得られることを示しています。

項目内容
Unity拠点移転2009年にUnity Technologiesがコペンハーゲンからサンフランシスコに移転し、米国のVC資金と人材獲得を目指しました
Unrealのロイヤリティ100万ドル超の収益に対して5%のロイヤリティが課されます
Unity 2023年問題2023年の突然の料金体系変更が、スタジオにプラットフォーム依存の見直しを促しました

政策面では業界団体の動きも重なります。EGDF(欧州ゲーム開発者連盟)は2026年の優先課題として、人間主導のAI維持、公正な市場条件、欧州の文化的・技術的主権の強化の3点を掲げています。Lesser会長はAIが開発者を置き換えるのではなく支援すべきだと強調しており、Brussee氏のAIエージェント構想とは強調点が異なる点も注目されます。

Q&A

Q. The Immense Engineはいつ提供されますか? 現時点で具体的なリリース時期は公表されていません。開発作業はすでに進められていると報じられていますが、提供開始の目処は明らかになっていません。

Q. Unreal EngineやUnityと比べてどこが違うのですか? 最大の違いは「完全に欧州でホストされ、欧州人によって開発され、欧州の規則・ガイドラインに準拠する」という設計思想です。技術的優位性よりも、データ所在地や法令準拠といった政策的な観点が前面に出ています。

Q. AI機能はエンジン本体に搭載されますか? Brussee氏はAIエージェントの活用によって「10〜15人分の仕事」が可能になると述べていますが、これは開発プロセスでのAI活用を指しており、エンジン本体にAIツールが組み込まれるかどうかは現時点で明らかになっていません。

出典