スマートフォンの画面に開く5mmの「穴」が、Ferrariのダッシュボードでは約20倍の100mmまで拡大されて転生した——Android Authorityはそんな大胆なクロスオーバーを報じています。FerrariのEV「Luce」のOLEDダッシュボードに、Samsungがもともとパンチホールカメラ向けに開発したHIAA(Hole in Active Area)技術が応用されているとのこと。フラットタッチ全盛の車載UIへのアンチテーゼとして、物理機構とOLEDを重ねるという発想自体が新鮮です。

スマホの5mmがFerrariで100mmへ——20倍に拡大した「穴」

Android Authorityによると、Samsung DisplayはFerrari Luce向けに複数のOLEDパネルを供給しているとされ、なかでも量産車では珍しい「層状(レイヤード)」のインストルメントクラスターが目を引きます。

このダッシュボードは、2枚のOLEDパネルを重ねた上に、実物の機械式の針がパネルの間で動く構造になっていると伝えられています。Android Authorityはこの構成について「従来のクルマのダッシュボードというより、巨大なインタラクティブ・スマートウォッチのインターフェースに近い」と表現していると報じられています。

実現の鍵となっているのが、SamsungがOLEDパネル内部に大きな開口部を設けるために用いたHIAA技術です。Ferrari Luce向けの開口部は約100mmあるとされ、スマートフォンに搭載されている一般的な5mmのパンチホールカメラ用カットアウトと比べて約20倍の大きさになると報じられています。スマホでは「カメラを隠すための穴」だった技術が、車載では「機械式の針を通すための開口部」へと役割を変えている——この読み替え自体が今回の核心です。

元はGalaxyのパンチホール——Samsungの主力ディスプレイ技術が越境

Android Authorityによると、HIAAはGalaxy S10とNote 10で初めて採用された後、Samsungのさまざまなスマートフォン製品で広く使われるようになった技術だと報じられています。インカメラを格納するためのディスプレイの「穴」を作る仕組みが、Ferrariのコクピットを構成するパーツとして応用された形だと伝えられています。

この越境が示唆するのは、ディスプレイ技術の応用領域がスマホの枠を越えて自動車・家電などへ広がりつつあるということ。タッチパネル一辺倒になりがちな車載UIに対し、「あえてOLEDに穴を開けて物理パーツを残す」という選択肢が成り立つ点も、今後の他メーカーの設計判断に影響しそうです。

中央コントロールパネルも10.1インチOLED+物理針の構成

HIAA技術は、センターコンソールに統合された10.1インチのOLEDディスプレイにも採用されていると伝えられています。このディスプレイは「マルチグラフ」として、時計・ストップウォッチ・コンパスなど複数のモードを切り替えて表示するとのこと。

さらに、3本の機械式の針がOLEDパネルに開けられた小さな貫通孔を通って物理的に取り付けられており、リアルタイムで360度回転する仕組みになっていると報じられています。フラットなタッチスクリーンですべてを置き換える昨今の車載UIの潮流に対して、Ferrariはデジタル表示と物理機構の融合という逆張りを選んでいます。

元Apple×Samsungという越境タッグ

Luce全体のデザインを手がけたのは、長年iPhoneのハードウェアを形作ってきた元AppleのチーフデザイナーJony Ive氏だとAndroid Authorityは伝えています。元AppleのデザインリーダーがSamsungのOLEDイノベーションを用いて、これまでで最も未来的なクルマのインテリアの一つを作り上げているとされる構図は、サプライチェーンと人材の越境という観点でも示唆に富みます。

スマートフォン業界で長く競合関係にあるAppleとSamsungが、自動車という別ジャンルのプロダクトのなかで実質的に協働している格好です。Android Authorityの報道ベースの情報であるため、Ferrari Luce発売時には実機でこのレイヤードディスプレイがどう映るのかを確認したいところです。続報を待ちましょう。

Ferrari Luceの全体像——€550,000・1,035馬力・800Vの電動スーパーカー

ディスプレイ以外の車両スペックも、Luceの位置付けを理解するうえで欠かせません。4基の電動モーターで最大1,035馬力を発生し、122kWhの大容量バッテリーを搭載、0-100km/h加速は2.5秒とされ、Cd値は0.254でFerrari史上最も低い数値になっています。

項目数値
価格(欧州)€550,000(約$640,000)から
生産開始2026年後半
米国発売2027年Q2
充電アーキテクチャ800V/最大350kW急速充電
航続距離530km超(約330マイル)
最高速度310km/h

注目すべきはバッテリー構造で、セルは韓国SK製ですが、モジュールはFerrariが将来を見据えて内製しており、理論上はまったく異なるセルへの置き換えも可能で、技術進化による陳腐化リスクを下げる設計になっています。開発過程で60件を超える新規特許も生まれたとされています。

Samsung Displayの「4枚独占供給」——HIAAの量産車応用に至る技術的背景

ディスプレイ供給側からの公式発表で、Luceの構成はさらに具体的になりました。Samsung DisplayはFerrari Luce向けに4枚のOLEDを独占供給しており、ドライバーズビナクル、センターコントロールパネル、後席コントロールパネルの3ゾーンに12.9インチ、12インチ、10.1インチ、6.3インチの計4サイズを提供しています。

ビナクル部分について、下層の12インチパネルが背景グラフィックとゲージ目盛を表示し、上層の12.9インチパネルに3つの円形開口が設けられて下のディスプレイを露出させる構造になっています。

Samsung Displayは2019年に業界初のホールディスプレイ設計を導入して以来HIAA技術を磨いており、現在は500件超の関連特許を保有しています。

100mmという大開口を量産車に持ち込むうえでは、切断エッジ周辺のOLED材料を湿気や空気から守る薄膜封止技術と、大開口周りの信号伝送を最適化して歪みを防ぎ画質の均一性を保つ工夫が鍵となったとされています。さらにOLEDは-20°Cでも0.2msの応答時間を維持できる一方、LCDは同条件下で200msまで遅延するため、車載用途での優位性も裏付けられています。

Q&A

Q. なぜFerrariはフルタッチではなく機械式の針を残したのですか? 公開情報の範囲では、Ferrariが選択理由を明言したとは報じられていません。ただAndroid Authorityの報道からは、2枚のOLEDパネルの間で物理的に動く針を見せる「層状ディスプレイ」が、デジタル表示一辺倒の車載UIとは異なる体験を狙った構成であることが読み取れます。

Q. Ferrari Luceのダッシュボードに開いている穴のサイズはどれくらいですか? Android Authorityによれば、Ferrari Luceの開口部は約100mmあり、スマートフォン向けの一般的なパンチホールカメラ用カットアウト(約5mm)の約20倍の大きさだとされます。この大きな穴に機械式の針を通し、2枚のOLEDパネルとの組み合わせで層状のディスプレイを実現していると伝えられています。

出典