インド初の前工程半導体ファブが、いよいよ装置調達フェーズに入りました。ASMLとTata Electronicsが、グジャラート州Dholeraで建設中の300mmウェハー対応工場にリソグラフィ装置を導入する覚書を締結。総投資額110億ドル規模、月産5万枚のキャパシティを目指す計画で、インドの半導体地図を塗り替える可能性を持つプロジェクトです。

ASMLとTataが覚書を締結、Dholera工場が始動

今回の合意は、インドのナレンドラ・モディ首相のオランダ訪問中に、オランダのロブ・イェッテン首相も同席するかたちで署名されました。覚書の対象はリソグラフィ装置の供給に加えて、人材育成やサプライチェーン支援まで含まれます。

プロセス技術については、台湾のPowerchip Semiconductor Manufacturing Corporation(PSMC)が28nm、40nm、55nm、90nm、110nmの各ノードをライセンス供与する形です。PSMCは2024年にTata Electronicsと締結した正式契約に基づき、設計と建設支援も担当しています。

Tata ElectronicsのCEO兼MDであるRandhir Thakur氏は、プレスリリースで次のようにコメントしています。

「ASMLの包括的リソグラフィソリューションにおける深い専門知識は、Dholera工場のタイムリーな立ち上げを支え、グローバル顧客のためのレジリエントで信頼できるサプライチェーンを構築し、イノベーションを推進し、現地人材を育成します」

月産5万枚、車載・モバイル・AI向けに照準

両社の共同声明によると、フル稼働時には月産5万枚のウェハーを生産する設計で、製品ポートフォリオには以下が含まれます。

  • 電源管理IC(PMIC)
  • ディスプレイドライバー
  • マイクロコントローラー
  • ハイパフォーマンスコンピューティング向けロジック

用途としては車載、モバイル、AI、通信の各アプリケーションが想定されています。

ASMLのCEOであるChristophe Fouquet氏は、インドの半導体セクターが「多くの魅力的な機会」を提供すると述べ、「技術的専門知識」を提供し「インドでの人材育成」に貢献することへの期待を示しました。

建設は約50%完了、政府支援と経済特区指定で後押し

Dholeraの建設サイトは、土木工事が約50%完了したと先月報じられました。昨年後半には土壌調査で地盤が当初の構造計画には軟弱かつ塩分が多すぎることが判明し、大規模な再設計が必要となりましたが、プロジェクト全体のスケジュールに遅延は生じない見通しと当時伝えられています。試作生産は本年中の開始が目標とされています。

資金面では、インド政府がIndia Semiconductor Mission(ISM)を通じて適格プロジェクトコストの50%を負担します。これは昨年3月にTata Electronicsとインド政府ISMの間で締結された財政支援契約に基づくものです。

支援内容提供主体
適格プロジェクトコストの50%負担インド政府(ISM)
Dholera経済特区内の土地補助グジャラート州政府
電力料金の軽減グジャラート州政府
印紙税の免除グジャラート州政府

Dholeraサイトは2026年4月に正式に経済特区(SEZ)として指定されました。さらにインドは今年2月、米国主導のPax Silica構想に参加しており、半導体・AIインフラ・重要鉱物を含むサプライチェーン同盟の一角を担う動きを強めています。

インド初の商用ファウンドリ、エコシステム不在からの脱却

現時点でインドには前工程ウェハーファブの生産能力が存在しません。MicronがグジャラートのSanandで組立・テスト施設を運営しており、その他にもパッケージング・テスト関連のプロジェクトが複数進行していますが、Dholera工場はインド唯一の商用ファウンドリプロジェクトという位置づけです。

ゼロから前工程を立ち上げる以上、装置・プロセス・人材のいずれも外部依存度が高い状態でのスタートとなります。ASMLからの装置供給、PSMCからのプロセス技術ライセンス、そして政府の手厚い補助が組み合わさって初めて成立する構造です。

リーク的な観測ではなく、首脳同席のもとで署名された覚書とSEZ指定という制度面の整備を伴うため、続報を追う価値のあるプロジェクトです。トライアル生産が本年中に始まれば、計画の現実味を測る最初の試金石となります。

Tataはどう資金を集めたか――外銀5行からの大型シンジケート融資

装置調達と並行して、Tata側の資金確保も具体的に進んでいます。Tata Semiconductor(TSML)は2026年2月5日、HSBCから1,743億ルピー、MUFGから1,147億ルピー、First Abu Dhabi Bankから1,102億ルピー、DBSから1,697億ルピー、ANZから1,146億ルピーの融資契約を5行と締結しています。これらの外銀はGandhinagarのGIFT City内支店を活用し、Tata側はより低い金利での調達を実現しています。

担保構造も特徴的です。

  • グジャラート州から長期リースされた163.5エーカーの土地は、未開発の工業指定地のため企業情報省への提出書類上の評価額がゼロとなっています
  • 中央政府がDholeraおよびJagiroadプロジェクトの総コストの50%を、グジャラート州とアッサム州が合わせて20%を負担するため、Tata自身の拠出は3,540億ルピーで足ります
  • 一方でTSML経営陣は2025年9月時点で、特殊ガスや希土類金属の供給など世界的な混乱が期限に影響しうると指摘しています

インド半導体エコシステム全体の進捗――ISM 2.0と承認12件体制へ

Dholera以外でも制度・案件の両面で動きが加速しています。2026年5月5日にUnion CabinetがISMの下で追加2件を承認し、6州にまたがる承認案件は計12件、累計投資額は約1.64兆ルピーに達しました。追加分のうちCrystal Matrix Limitedは、Dholeraに化合物半導体ファブとATMPの統合施設を建設し、これはGaN(窒化ガリウム)技術を用いたインド初の商用Mini/Micro-LEDディスプレイ製造拠点となります。

財政・運営面の最新動向は次の通りです。

項目内容
2026-27予算配分半導体ミッションに8,000億ルピーを計上、プログラム開始以来最大の単年度規模
ISM 2.0の方向性装置・材料製造、先端設計能力、自主IP開発に注力
稼働開始2026年2月28日にModi首相がSanandのMicron ATMP施設を開所
当局目標Vaishnaw大臣は2026年末までに4工場稼働、2027年に2工場追加、Dholera初シリコンを2026年12月と設定

Q&A

Q. Dholera工場ではどのような半導体が作られますか? 電源管理IC、ディスプレイドライバー、マイクロコントローラー、ハイパフォーマンスコンピューティング向けロジックなどです。プロセスノードは28nm、40nm、55nm、90nm、110nmで、車載・モバイル・AI・通信用途を想定しています。

Q. なぜ最先端ではなく28nm〜110nmなのですか? PSMCがライセンス供与するノードがこの範囲であるためです。共同声明では車載・モバイル・AI・通信といった用途が挙げられており、電源管理ICやマイクロコントローラー、ディスプレイドライバーといった製品群と整合する構成になっています。最先端ロジックを狙う戦略かどうかについて、公開情報の範囲では明示されていません。

Q. インドにはすでに半導体工場がありますか? 前工程のウェハーファブは現時点では存在しません。MicronがグジャラートのSanandで組立・テスト施設を運営しているほか、パッケージング・テスト関連のプロジェクトが複数進行していますが、商用ファウンドリとしてはDholeraが初となります。

Q. プロジェクトはいつ立ち上がる予定ですか? 土木工事は約50%完了したと報じられており、試作生産は本年中の開始が目標とされています。フル稼働での月産5万枚に到達する時期については現時点では明らかにされていません。

出典