1987年の創業以来、労働組合を持たずに運営されてきたTSMC。その同社で、社員が公然と組合結成とストライキを議論し始めたと報じられています。引き金は、業績連動ボーナスを約15%引き下げるとされる噂です。直近のQ1で純利益NT$572.5 billion($17.9 billion、約2兆7,000億円)という過去最高益を叩き出した直後の話で、AI特需で稼ぎ続ける半導体王者の足元で、社員と経営陣の温度差が一気に表面化しました。
さらに刺激剤となっているのが、Samsungとの還元水準の落差です。Samsung半導体部門の2026年の1人あたり平均支給額の推計は約340,000ドル(約5,300万円)とされる一方、TSMC社員の平均ボーナスは約87,000ドル(約1,300万円)。Tom's Hardwareの数字を並べると、同じ半導体最前線で働きながら還元水準の差は鮮明です。
労組結成議論が表面化——約15%カットの噂に社員が動く
Tom's Hardwareは、DigiTimesの報道を引用するかたちで、TSMC社員が業績連動ボーナスの約15%削減を巡って労組結成とストライキを議論していると伝えました。社員側は、過去にTSMCが留保利益の約13%をボーナスとして還元してきた慣行が、利益が伸びているにもかかわらず縮小されていると主張しています。
不満は台湾の職場コミュニティ「Dcard」やTSMC関連のFacebookページに投稿され、5月28日に新竹本社で開かれる株主総会を前に高まっているとされます。TSMCは1987年の創業以来、労働組合を持たずに運営されており、社員が集団的に交渉する公式な仕組みは存在しません。一部の社員は、台湾の法制度下で労組結成が可能かを問う投稿も行っていると報じられています。
TSMC側は声明として、2026年の社員プロフィットシェア・ボーナスは2025年よりも速いペースで増加する見通しだと述べ、「台湾における企業の社会的責任の高まりを十分に認識している」と回答したとDigitimesが伝えています。約15%カット自体は現時点で公式に確認されたものではなく、Tom's Hardwareによれば、韓国・台湾メディアが引用するアナリストの観測に基づく非公式な情報とされています。
12ファブ同時建設という現実——年$52〜56 billionが圧迫する社員還元
噂されているカットの背景として、Tom's Hardwareが引用する韓国・台湾メディアのアナリストの見方では、TSMCの設備投資プログラムが最も有力な要因として挙げられています。同社は年間$52〜56 billion(約8兆〜8兆7,000億円)を投じ、アメリカ・日本・ドイツ・台湾で合計12の新規ファブを並行して建設中。2nm・1.4nmプロセスでの優位確保が狙いとされています。
台湾のLiberty Timesによれば、2025年の業績に基づくTSMC社員の平均ボーナスはNT$2.64 million(約87,000ドル/約1,300万円)で、ボーナス総原資はNT$206.1 billion規模に達していたとされています。記録的な利益と巨額の設備投資が同時進行するなかで、この還元水準を維持できるかが焦点です。
なお、12ファブの内訳としてTom's Hardwareが明示しているのはアメリカ・日本・ドイツ・台湾という国・地域名のみで、個別のファブ名や所在地ごとの内訳までは公開情報の範囲では明らかにされていません。
Samsung 約340,000ドル vs TSMC 約87,000ドル——2026年推計で広がる差
不満を増幅させているのは、競合の労使合意との露骨なコントラストです。Samsungは先週、18日間に及ぶ工場停止を回避するかたちで、半導体部門の営業利益の10.5%を株式ベース、1.5%を現金ベースで、10年間にわたって社員ボーナスに割り当てる合意を結びました。Tom's Hardwareによれば、直近のSamsungの営業利益の推計値に基づくと、Samsung半導体部門の2026年の1人あたり平均支給額は約340,000ドル(約5,300万円)に達すると見込まれています。TSMCの平均約87,000ドル(約1,300万円)との比較が、社員の不満を強めている構図です。
SK hynixも2025年9月に営業利益の10%をボーナスに充てる類似の枠組みで合意済み。組合を持たないTSMC社員から見れば、同等の還元交渉ができないという構図が浮き彫りになります。
ただし、Samsungの合意自体も法的な逆風に直面しています。営業利益の固定比率を10年間にわたって社員還元に確約する仕組みは、大規模な半導体製造に必要な資本支出と矛盾するとして、株主訴訟が提起されていると伝えられています。シリコンウェハー大手GlobalWafersの会長Doris Hsu氏は、9カ国18拠点のうち労組がある拠点とない拠点が混在しているとしたうえで、業績を左右するのは「労組の有無ではなく、企業が社員と利益を分かち合うかどうかだ」との見解を示したと報じられています。
5月28日の株主総会が次の焦点
今回の情報は、DigiTimesの報道をTom's Hardwareが引用するかたちで伝えたもの。約15%カットは現時点でTSMCが公式に認めたものではなく、TSMC自身は2026年のボーナス成長を見込むと回答しています。報じられている数字と公式コメントの間には依然として開きがあります。
次の焦点は、5月28日に新竹本社で開かれるTSMCの株主総会。社員還元方針が議題化されるか、経営陣がボーナスや労使関係について踏み込んだ発言を行うかが、当面の注目点です。続報を待ちましょう。
2nm立ち上げとAMD「Venice」——巨額投資の裏で進む技術前倒し
ボーナス原資を圧迫しているとされる設備投資は、顧客向けの具体的な成果として2nm世代の量産という形で結実しつつあります。AMDは2026年5月21日、次世代EPYCプロセッサ「Venice」がTSMCの2nmプロセスで台湾にて量産立ち上げに入り、将来的にはArizona工場でも量産する計画だと発表しています。「Venice」はTSMCの先端2nmプロセスで量産入りした業界初のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)製品と位置づけられています。
米国生産の前倒しも進行中
- Nikkeiが伝えた情報源によると、TSMCはArizona第2工場に2026年夏ごろから装置を搬入し始める計画で、設置は2026年7〜9月期が見込まれています
- 同第2工場は当初2028年稼働予定でしたが、3nm量産の開始時期は2027年に前倒しされる見通しです
- 2nm/A16対応のFab 21 phase 3は2025年4月に着工し、米国での2nm・1.6nm級チップ生産も予定より早期の立ち上げが目指されています
株主総会の議題と配当・資本支出——還元のもう一方の軸
5月28日の株主総会に先立ち、取締役会レベルではすでに2025年の利益配分と2026年の資本政策が固められています。5月12日の取締役会では、2026年第1四半期の連結売上高NT$1,134.10億・純利益NT$572.48億の業績報告とともに、第1四半期の1株あたりNT$7.0の現金配当が承認され、配当は2026年10月8日に支払われる予定です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Q1 2026 1株あたり配当 | NT$7.0(現金) |
| 設備投資承認額 | 約US$312.8億 |
| TSMC Arizonaへの資本注入 | 最大US$200億 |
| 2025年従業員ボーナス総額 | 約NT$2,061.46億 |
2025年分のうち業績ボーナスNT$1,030.73億は四半期ごとに配分済みで、同額のプロフィットシェアは2026年7月に支給される予定です。株主総会では2025年の利益処分や従業員プロフィットシェア・ボーナスの報告に加え、定款および資産取得処分手続きの改定が決議事項として諮られます。配当・設備投資・社員還元という三つの資金配分が、同じテーブルで議論される構図です。
Q&A
Q. TSMCのボーナス約15%カットは正式に決定されたものですか? いいえ。Tom's HardwareによればDigiTimesの報道を引用する形で伝えられた非公式な情報で、韓国・台湾メディアが引用するアナリストの観測に基づくものとされている段階です。TSMC自身は2026年のプロフィットシェア・ボーナスが2025年より速いペースで増加する見通しだと回答しており、約15%カット自体は公式には確認されていないと報じられています。
Q. なぜTSMCには労組がないのですか? TSMCは1987年の創業以来、労働組合を持たずに運営されてきたとTom's Hardwareは伝えています。社員が集団的に交渉する公式な仕組みは存在せず、Samsung・SK hynixのような営業利益連動の労使合意を結ぶ前提が整っていない点が、今回の議論の出発点になっています。一部の社員は、台湾の法制度下で労組結成が法的に可能かを問う投稿を行っているとされています。
Q. 5月28日の株主総会で何が起きる可能性がありますか? 5月28日にTSMCの新竹本社で開かれる株主総会を前に、Dcardや関連Facebookページで社員の不満が高まっていると報じられています。経営陣がボーナス方針や労使関係についてどう言及するか、株主側からの質問がどう扱われるかが焦点とされていますが、具体的な議題やアジェンダは公開情報の範囲では明らかにされていません。
出典
- Tom's Hardware — Angry TSMC employees considering strikes, unionization over employee bonuses, report claims — company reportedly considering 15% payout cut to fund capex despite record revenues fuelled by AI surge
- HPCwire — AMD Announces Production Ramp of Next-Gen AMD EPYC Processor 'Venice' on TSMC 2nm Process Tech
- GlobeNewswire — AMD Announces Production Ramp of Next-Generation AMD EPYC Processor "Venice" on TSMC 2nm Process Technology
