スマートフォンでPCゲームをより滑らかに——。PCゲーマーに知られるフレーム生成ツール「Lossless Scaling Frame Generation(LSFG)」が、Androidに移植されました。Android上でPCゲームを動かすアプリ「GameNative」に既に統合されており、対応環境ではフレームレート向上が報告されています。フレーム生成とは、ゲーム本来の描画フレームの間にAIで補間フレームを挿入し、見かけ上の滑らかさを引き上げる技術です。
Lossless ScalingがAndroidへ——GameNativeに統合
PCのSteamで販売されているLossless Scalingは、Vulkan APIを使ってさまざまなゲームにフレーム生成を後付けで適用できるユーティリティです。タイトル側にフレーム生成機能が内蔵されていなくても、補間フレームを生成して映像を滑らかにできるのが特長です。
開発者がこのLSFGをAndroidに移植したことを公開しました。既にGameNativeに組み込まれており、クイックアクセスメニューから設定をシームレスに切り替えられるようになっています。
なお、Android版を使うには元となるPC版アプリの所有が条件です。GameNativeのチェンジログには次のように記載されています。
コンテナ設定で有効化すると、Steamで権利を持っていればLossless Scalingアプリをダウンロードするよう促され、そうでなければ購入するよう案内されます。
Snapdragon+Adreno限定、画面キャプチャ方式で50〜80ms遅延
本機能はSnapdragonプロセッサとAdreno 600シリーズ以降のGPUを搭載した端末で動作するとされており、対応範囲は限定的です。それ以外のチップ/GPU構成での対応可否についてソース上で明確な言及はなく、現時点ではSnapdragon+Adreno環境向けの実装と位置付けられています。
技術的な仕組みについて、開発者は以下のように説明しています。
- 非rootのAndroidでは、LinuxのVulkan implicit layer機構(描画APIに後付けで処理を挟み込む仕組み)に相当するものが存在しない
- Android 12以降はnon-debuggableプロセス(デバッグ不可に設定された一般アプリ)への外部コードのロードを明示的にブロックしているため、他アプリのVulkan swapchain(描画フレームのバッファ列)をフックできない
- 代替として、MediaProjectionによる画面キャプチャストリーム上でフレーム生成を実行し、結果をシステムオーバーレイで対象アプリ上に合成する
この画面キャプチャ経由という実装上の制約から、Linux版と比べて50〜80ミリ秒の遅延が発生するとのことです。
実測——『The Last of Us Part 1』で大幅向上
GameNativeの公式X(旧Twitter)アカウントが投稿したデモ動画では、『The Last of Us Part 1』のフレームレートが大きく向上する様子が確認できます。ユーザーからは、30fps→60fpsや60fps→120fpsといった改善も報告されています。スマートフォンのディスプレイで滑らかな描画を引き出せる、興味深いアプローチです。
ただし、いくつかの注意点が指摘されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 遅延 | Linux版比で50〜80ミリ秒のラグが発生 |
| 不向きなゲーム | 瞬間的な反応が要求されるタイトル(FPS・格闘ゲーム等) |
| 限界 | 元から再生可能なフレームレートが出ていない場合は効果が薄い |
開発者自身も「LSFGは魔法のツールではない」と述べており、ベースとなるフレームレートが極端に低い場合に大きな改善は期待できない、としています。瞬発力が要求されるタイトルでは、むしろオフにした方が快適にプレイできるでしょう。
GameHubでも類似機能——Androidエミュ・コンテナ界隈の流れ
フレーム生成機能を取り込んだのはGameNativeだけではありません。PCゲーム向けの著名アプリGameHubも、AIフレーム生成機能を獲得したと報じられています。ただし、こちらがLSFGをベースにしているかどうかは現時点では明らかになっていません。
Android上でPCゲームを動かす流れが本格化する中、描画品質を底上げするツールが登場してきています。手元のSnapdragon搭載端末でPCゲームの動作に物足りなさを感じているなら、GameNative + Lossless Scalingの組み合わせを試す価値があります。一方で、対応GPU・PC版アプリの購入・遅延という条件を許容できるかは事前に確認しておくのが妥当です。
マルチフレーム生成倍率と高リフレッシュレート画面の活用
LSFG-VKは単純な2倍補間にとどまらず、複数段階の倍率を選べる「マルチフレーム生成」として実装されています。『The Last of Us Part 1』のデモでは、ベース30FPSに対し2x倍率で60FPS、3x倍率で80FPS、4x倍率で100FPSまでフレームレートが伸びました。
設定項目と端末別の最適倍率
クイックアクセスメニューからは、フレーム生成倍率、フロースケール、パフォーマンス重視版のFGモデルへの切り替えが調整可能です。Snapdragon Elite Gen 5のような新しい高性能プロセッサ搭載端末は、視覚的なズレを抑えつつより高い倍率を扱えるとされています。
| 倍率 | 出力FPS(30FPS基準) | 想定用途 |
|---|---|---|
| 2x | 60FPS | 標準的なディスプレイ向け |
| 3x | 80FPS | 90Hz級パネル向け |
| 4x | 100FPS | 高リフレッシュレート端末向け |
この技術の意義は、中〜高価格帯のAndroid端末に搭載される高リフレッシュレート画面を最大限に活用できる点にあります。
GameNative 0.9.1で同時に追加された周辺機能
LSFG-VKの統合は、GameNative 0.9.1で導入された複数の描画系アップデートの一部に位置付けられています。同バージョンはPC側でも採用例の多いAMD FSR 1.0アップスケーリングと、Proton 10対応を追加しています。
- スケーリングモード: None・Linear・Nearest・Fill・Stretch・FSR 1.0が選択可能になりました
- フレーム生成の実装: Vulkanレイヤーがコンテナ起動時にインストールされ、Optical Flowで実フレーム間を補間する仕組みで、DLLは同梱せずSteam app 993090のユーザーファイルを利用します
Snapdragon以外のGPU対応への布石
GameNativeはAdreno以外のGPUにも対応領域を広げつつあります。0.9.0のプレリリースではPixel 10のPowerVR GPUへの初期対応が含まれており、Snapdragon搭載端末のAdreno GPUに最適化されがちなこの種のアプリにあって、Google製端末への配慮として注目されています。フレーム生成と並行して、ベース描画パイプライン側の選択肢が広がっている点も押さえておくと良いでしょう。
Q&A
Q. このフレーム生成機能を使うには何が必要ですか? Snapdragonプロセッサ+Adreno 600シリーズ以降のGPUを搭載したAndroid端末、GameNative、そしてSteamで販売されているLossless Scalingアプリ本体の所有が条件とされています。
Q. どんなゲームでも効果がありますか? 元のフレームレートがある程度確保されていることが前提です。開発者も「魔法のツールではない」と述べており、再生がそもそも厳しいタイトルでは効果が限定的になります。また50〜80ミリ秒の遅延が乗るため、瞬間的な操作精度が問われるゲームには不向きです。
Q. なぜSnapdragon+Adreno限定なのですか? 開発者の説明によれば、Android 12以降の制約で他アプリのVulkan描画パイプラインを直接フックすることができず、代替手段としてMediaProjectionによる画面キャプチャとシステムオーバーレイ合成で実装されています。現状の対応範囲はSnapdragon+Adreno 600シリーズ以降とされており、他チップへの展開可否は現時点で明確になっていません。
