「これは現実のリスクだ。AIによって人類全員が死を迎える可能性がある(This is a real risk, we all could die as a result of artificial intelligence)」——その発言が連邦法廷に響いた瞬間、ロジャーズ判事は静かに、しかし鋭く返しました。「あなたのクライアントは、そのリスクを認識しながらも、まさに同じ分野で会社を作っているというのは皮肉ではないか」。AI企業xAIを経営するマスク氏が自らの弁護士を通じてAI絶滅リスクを訴えるという矛盾を、カリフォルニア州連邦裁判所のイボンヌ・ゴンザレス・ロジャーズ判事は公式記録に刻みました。マスク氏対オルトマン氏のOpenAI裁判は、企業間の法的争いが一瞬で哲学的問いに変わった場面を生み出しました。

「AIで死ぬ」を訴えたAI経営者——判事が公式記録に残した皮肉

マスク氏の弁護士スティーブン・モロ氏は法廷でこう述べました。「これは現実のリスクだ。AIによって人類全員が死を迎える可能性がある(This is a real risk, we all could die as a result of artificial intelligence)」

ロジャーズ判事はすぐさま議論を本題に戻しましたが、その言葉は単なる軌道修正にとどまりませんでした。

「あなたのクライアントは、そのリスクを認識しながらも、まさに同じ分野で会社を作っているというのは皮肉ではないか(It's ironic your client, despite these risks, is creating a company that is in the exact space)」

マスク氏はAI企業xAIを設立し、現在もAI開発競争の最前線に立ちます。AIの危険性を訴える人物が同じテクノロジーを推進している——その矛盾が、連邦法廷という公式の場で記録に残りました。判事はさらに続けました。「人類の未来をマスク氏の手に委ねたくないと思っている人もいる。しかし、そのような議論をここでするつもりはない(There are some people who do not want to put the future of humanity in Mr Musk's hands. But we're not going to get into that business)」。この発言は、争いの本質がマスク氏自身の信頼性にも及んでいることを示すものでした。

マスク氏が勝てばオルトマン氏はCEOを失う——OpenAIの「魂の転換」が問われる1か月

裁判の核心は、OpenAIが法人格の根幹を書き換えたことへの異議申し立てです。

マスク氏は2015年にOpenAIを非営利団体として共同設立しました。設立趣意書には「人類全体の利益のためにAGI(汎用人工知能)を開発する」という目的が明記され、利益分配は想定されていませんでした。OpenAIはその後Microsoftなどから多額の外部資本を受け入れ、営利子会社を設立する形で事業を拡大しました。マスク氏はこの転換をオルトマン氏による公共の信頼への背信であり、自身が資金を提供した非営利ミッションの放棄だと主張しています。

被告にはオルトマン氏だけでなく、OpenAI社長のグレッグ・ブロックマン氏とMicrosoftも名を連ねています(Microsoftはこれを否定)。TechRadarが指摘するように、この裁判はAIの存在意義を問うものではなく、OpenAIの今後の方向性をめぐる争いです。カリフォルニア州で行われる1か月に及ぶこの連邦裁判でマスク氏が勝訴した場合、OpenAIは抜本的な組織変動を迫られ、オルトマン氏がCEO職を失う可能性があります。ChatGPTをはじめとするOpenAIのプロダクトや方針が、この裁判の結果によって大きく変わりうることを意味します。

「作りながら危険と警告する」——AI業界が法廷で突き付けられた自己矛盾

今回の法廷での一幕が照らし出すのは、AI開発者が業界全体で共有する矛盾です。

マスク氏はAIの危険性を公言しながらxAIを設立しました。OpenAIはAGIの「安全な開発」を掲げながら、Microsoftとの提携を通じて商業化を進めました。安全性への懸念を表明しながら同じテクノロジーの開発を競うという構図が、今回の裁判を通じて連邦法廷の記録に刻まれました。

TechRadarが伝えるように、この裁判で議論されているテクノロジーはすでにChatGPTとして私たちの日常に根付いています。マスク氏もオルトマン氏も、そのテクノロジーを作り出した張本人です。危険性を警告しながら開発を続けるという矛盾が連邦法廷の公式記録に刻まれた——それ自体が、現代のAI開発が抱える問いを象徴しています。

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