南米の牧人が家畜を捕らえる「ボーラ」と同じ原理で、ドローンを空から叩き落とす——ドイツ・カールスルーエ工科大学(KIT)の研究チームが、40mm口径ランチャーから秒速80m(80 m/s)で細い鋼鉄チェーンを射出し、ローターに絡ませて撃墜する純機械式の対ドローン兵器を提案しました。レーザーや電子戦装置を使わない「低テク」アプローチでありながら、初期の射程テストでは繊維製ネットを上回る結果を示したとされ、急増する不正ドローン飛行への現実的な対抗策として注目を集めています。
秒速80mで放たれる鋼鉄チェーン——「機械式ボーラ」の仕組み
研究を率いるのはKIT応用材料研究所のClaus Mattheck教授で、成果は学術誌『Aerospace & Defence』および『Konstruktionspraxis』に掲載されました。コンセプトの源流は、南米の牧人が家畜や獲物を捕らえるために古来使ってきた投擲武器「ボーラ」と同じ物理にあります。
KITチームのアプローチを整理すると、以下のようになります。
- リンク径3〜4ミリメートルの細い鋼鉄チェーンを使用
- 40mm口径のランチャーから80 m/s(秒速80m)で発射
- シミュレーションで用いたチェーンは長さ約2,000mm(6.5フィート、約2メートル)・70グラム
- ドローンに接触するとローターとブレードに絡みつき、機体を地上に落とす
固体の弾頭と比べて落下時の付随被害リスクが低い点、そして繊維製ネットを射程テストで上回った点が、Mattheck教授の挙げる優位性です。
シミュレーションと実射試験
チームは商用有限要素解析ソフトウェア「Abaqus」を用いて、70グラム・全長2,000mmのチェーンが1kgのクアッドコプターモデルに衝突する場面をシミュレートしました。摩擦・プロペラ形状・回転動力学を考慮し、以下の3シナリオを検証しています。
| シナリオ | 条件 |
|---|---|
| ① 水平接近 | 静止ホバリング中のドローンにチェーンが水平から衝突 |
| ② 40mmランチャー発射 | 同じ条件で実際に40mm発射器から射出 |
| ③ 移動標的 | 30度傾斜・25 m/sで移動するドローンを標的化 |
加えてバーデン=ヴュルテンベルク州のSternenfels弾道センターで、カタパルト式ランチャーを用いた実射試験も実施されました。ただし計算モデルは空気抵抗を考慮していないと研究者自身が認めており、発射口で発生するリング渦がチェーンの広がり方に影響を与える可能性があると指摘されています。あくまで「基礎的な実現性試験」という位置づけです。
レーザー兵器とのコスト・運用の対比——非対称性の逆転
このアプローチが目を引くのは、近年の主流である指向性エネルギー兵器や電子戦システムとは正反対の方向にある点です。たとえば英国のレーザー兵器「DragonFire」は2027年までに英海軍駆逐艦に搭載予定で、50kWのファイバー結合ビームで光速で目標を焼き切る方式です。Tom's Hardwareは、DragonFireは1発あたりの射撃コストが数千ドル規模に達し、運用には相応の電力インフラを必要とすると報じています。
これに対しKITの方式は、弾体となるチェーンが70グラム程度の鋼鉄で、ポータブルなランチャーから発射できます。最大のトレードオフは射程で、ショットガンと同様に近距離でしか効果を発揮しません。安価な民生ドローンを高価なレーザーで撃ち落とす「非対称性」を踏まえると、低コスト・機械式の選択肢は近接防御の局面で現実解となり得るとの見方もあります。
1,000件超の不審飛行——ドイツが1億ユーロ超を投じる理由
この研究の背景には、ドイツが抱える深刻な事情があります。独政府高官の発言として伝えられているところでは、2025年だけで軍事施設・空港・重要インフラ上空で1,000件を超える不審なドローン飛行が記録されています。2025年10月にはミュンヘン空港が正体不明のドローン活動で複数回閉鎖される事態も発生しました。
これを受けて連邦議会(Bundestag)は、2025年と2026年の対ドローン関連予算として1億ユーロ(約1億1,600万ドル、約180億円)超を承認しています。高価なレーザーシステムを大量配備するのが現実的でない局面で、安価で量産可能な機械式の選択肢が検討される土壌が整いつつあります。
現時点では基礎的な実現性試験の段階にあり、実戦配備の可否や装備としての完成度は未知数です。空気抵抗を含めた精緻なモデル化と実射データの蓄積が次の焦点となるでしょう。
Q&A
Q. 落下する鋼鉄チェーンによる民間人への危険性はないのですか? Mattheck教授は、同等質量の固体弾頭と比較すると、落下するチェーンの付随被害リスクは小さいと指摘しています。市街地での実運用における安全性評価については、詳細は出典元を参照してください。
Q. どのくらいの距離まで有効ですか? 研究チーム自身が「最大のトレードオフは射程」と認めており、ショットガンと同様に近距離でしか効果を発揮しません。具体的な有効射程の数値については、詳細は出典元を参照してください。
Q. なぜ繊維製ネットではなく鋼鉄チェーンなのですか? KITチームの初期のカタパルト式射程テストにおいて、鋼鉄チェーンが繊維製ネットを上回る結果を示したためです。詳細は出典元を参照してください。
Q. 実戦配備の予定はありますか? 現時点では基礎的な実現性試験の段階で、計算モデルに空気抵抗が含まれていないなど検証すべき要素が残っています。配備計画の詳細は出典元を参照してください。
